なぜ借方が左側、貸方が右側になった?理由は簿記の歴史で分かった
「なぜ、左側を借方といい、右側を貸方というのか」
簿記を勉強しはじめた人なら、たぶん、いちばん最初にこの疑問にぶちあたると思います。私も疑問に思ってました。左側と右側でいいじゃん。百歩譲って「左方・右方」で手を打ちませんか?
ダメですか、そうですか。
とりあえず「そういうもんだ」と覚えてしまえば、勉強する上では問題ないです。でも、仕訳で「借方」「貸方」と見るたびにモヤモヤする毎日…。
そんなことが続いたある日、このモヤモヤはすっきり解決しました。この記事では、簿記学校の講師から教えてもらった、この疑問の答えを書いていきます。
ぶっちゃけ、簿記の歴史をひも解くお話なので、諸説あるかもしれません。でも、大事なのは自分で納得できること。学者さんとかになるわけじゃないですからね。私の中ではずっと感じていた疑問が解けて、すっきりしました。
こんなこと簿記試験には出ませんが、すっきりして先に進むのには、役立つと思います。簿記学習の合間の気分転換にでも、読んでもらえれば嬉しいです。
まずは整理。借方・貸方のよくわからん3つの謎
最初に、どの辺が謎でモヤモヤして引っかかって、「借方貸方ってなんなん!」と学習の邪魔してたのか、整理しておきます。
▼ 借方・貸方の謎 ▼ その1:「借方」「貸方」と呼ぶ理由 その2:貸付金を借方、借入金を貸方に書く理由 その3:借方が左側、貸方が右側になった理由 |
この中で、厄介だったのが「その3」です。その1とその2は、ググってみてもそこそこ見つかるので、疑問点を整理しながらサラっと書いておきます。
「借方」「貸方」と呼ぶ理由
まず、謎その1は、なぜ「借方」「貸方」と呼ぶのかです。この言葉って簿記以外の分野だと見かけないですよね。しかも、(今では)借りるとか貸すとかの意味はなくて、単に「右側と左側をそう呼びます」なーんて教科書にあったりするやつです。
▼ 謎その1の答え ▼ 日本に複式簿記を輸入するとき、debit(左側の呼び方)を「借方」、credit(右側の呼び方)を「貸方」と、福沢諭吉が翻訳したから。 |
言語表記の違い(横書きか縦書きか、左ページから書くか右ページから書くか)もあって、諭吉先生も翻訳するときにはたいぶ苦悩されたようです。ちなみに、debit の語源はラテン語で「負債を負っている(側)」、credit の語源はラテン語で「貸し付け」になります。イメージ的にはワカル。ナイス翻訳っす。
貸付金を借方、借入金を貸方に書く理由
続いて、謎その2。貸付金を借方、借入金を貸方に書く理由ですが、これは簿記を学び始めたころはかなり気持ち悪かったです。使ってる漢字が真逆ですからね。
▼ 謎その2の答え ▼ 取引相手から見ると、貸付金は借りているお金、借入金は貸しているお金。だから、貸付金は借方、借入金は貸方に書く。 |
ほう、なるほど。借方・貸方とは「相手の立場に立ってみたときの呼び方」であると、そういうわけですね。別の言い方をすると、「私が」借りた・貸したではなく、客観的に記録するためにそうなったようです。それなら納得できるしワカル。
借方が左側、貸方が右側になった理由
そして、謎その3なんですが……これがワカラナイ。「欧米では左側を借方、右側を貸方と呼んでいたから」という説明はあるんですよね。
※もちろん先ほど書いたように、借方・貸方に相当するあちらの単語(debit, credit など)が使われています。
この理由が見つからない。
これ、なんなら逆でも、簿記体系としては成り立ちますよね。今までずっと左側を「借方」、右側を「貸方」でやってきてるので、逆だとかなり気持ち悪い。でも、資産や費用を右側に、負債や収益を左側に書く仕組みにしても、理論的には問題なさそう。
理論的にはどっちでもOKということは、なぜ今のようになったのか分からないと、「借方」「貸方」のどっちが左でどっちが右なのか、覚えにくい。うっかり間違うじゃん(簿記に慣れたころには間違えなかったけど)。
というわけで、知りたかったのは謎その3です。
簿記の歴史で分かった。借方を左に、貸方を右に書く理由
この章では、謎その3の答え、というよりも、教えてもらったらすっきり納得できた理由をメインに書いていきます。もう一度はっきり書いておくと、謎その3はこれです。
▼ 借方・貸方の謎その3 ▼ 借方が左側、貸方が右側になった理由は? |
その3の話と一緒に、他の謎の話も出てきます。そこはついでの話というか、「こんな理由があったからこうなった」という簿記の歴史の流れがあるので、出てきたら説明しておきます。
お金を借りてくれた人を一枚紙に記帳していた
最初は、お金を貸した相手の名前と貸した金額を、記帳していました。
このときはまだ、一枚紙か、保存にすぐれた羊皮紙のようです。それをくるくると巻いたり、折りたたんだりします。中世が舞台の映画とかに出てくる、ちょっとファンタジーでかっこいいやつですね。
紙自体が高価なものだったので、今のノートみたいな冊子が普及するのはだいぶ後の時代。15世紀に活版印刷が発明されてからです。
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コロンブス 100万QP
ドレイク 200万QP
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※人物名や単位にとくに意味はありません。
お金を貸す人は、今でいうと銀行業なので、銀行家としておきます。で、記帳されているこの人たちは、「お金を貸した相手」なのですが、
ここが謎その2と関係してくるのですが、取引相手の視点で考えます。銀行家の立場じゃなくて、お客様の立場です。なので、「貸した人」ではなく「借りてくれた人」です。さらに「借りてくれた方」って呼ぶと、少しお客様感でますよね。
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借りてくれた方
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コロンブス 100万QP
ドレイク 200万QP
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こんな感じ。
昔の人はこんなふうに考えてたんだなーと分かると、(貸付金)を「借りてくれた方を書く欄」=「借方」に書くのも納得できます。謎その2のモヤモヤも消えて、少しすっきりです。
お金を貸してくれた人を下の余白に記帳した
複式簿記のルーツは、14世紀のイタリアにあるようです。大航海時代のちょっと前の時代。探検家や貿易商が帆船で出かけていって、儲かる商品を見つけて帰ってきます。
実際には「船で出かける」なんて簡単なもんじゃなく、当時の航海は命がけ。嵐で遭難すれば船ごと全滅するし、そもそも航海に出るのに相当な資金が必要になります。
でも男たちは、グランドラインを目指して航海に出るわけです。ワンピースの世界です。資金を借りて集めても、成功すれば莫大な富と名声が手に入る。なんたって、海賊王ゴールド・ロジャーの財宝ですからね。
※違います、ワンピースじゃないです。ほんとは交易品です。
こうして金貸し業がさかんになると、銀行家にお金を貸す人が出てきます。今でいうと、銀行に出資する感じか、預金にも近いですかね。交易が成功して銀行家が儲かったら、分け前をもらいます。
そこで銀行家の人は、「借りてくれた方」を書いていた紙の、下の方の余白に「貸してくれた方」の情報を書くようになりました。
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借りてくれた方
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コロンブス 300万QP
ドレイク 200万QP
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貸してくれた方
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カエサル 100万QP
ギルガメッシュ 500万QP
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※人物名や単位にとくに意味はありません。
こんな感じになります。
こう見ていくと、借方の考え方と同じように、(借入金)を「貸してくれた方を書く欄」=「貸方」に書くのが納得できます。
ノートの左ページに借りてくれた人を書くようになった
ここまでで、記帳している情報としては複式簿記のルーツの完成です。次に、記帳していた紙のほうに変化が起きます。
今までは、一枚紙(羊皮紙)に記帳していました。一枚の紙なので、まず「借りてくれた方」の情報を上の方に、そして「貸してくれた方」の情報をその下の方に書いていたのが、さっきまでのお話です。
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借りてくれた方
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コロンブス 300万QP
ドレイク 200万QP
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貸してくれた方
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カエサル 100万QP
ギルガメッシュ 500万QP
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15世紀になって活版印刷が発明されると、紙製の製本された本が普及していきます。紙が大量に使われるようになると価格も安くなって、紙製の本を安価に製本できるようになると、冊子になった紙製のノートが普及していきます。
欧米の本やノートは、左からページが始まります。横書きなので。これは今の横書きノートと同じです。
それじゃあまず、最初に書いていた「借りてくれた方」を左のページに書きましょうか。次に、下の余白に書いていた「貸してくれた方」を右のページに書くのが自然ですね。
すると、こうなります。
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借りてくれた方 | 貸してくれた方
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コロンブス 300万QP |カエサル 100万QP
ドレイク 200万QP |ギルガメッシュ 500万QP
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そう言われると、終わりなんですが…。
▼ 謎その3の答え ▼ 一枚紙の上の方に「借りてくれた方」、下の方に「貸してくれた方」を書いていた。 ↓ 帳簿が一枚紙から冊子になったとき、まず左のページに「借りてくれた方」、残った右のページに「貸してくれた方」を書くようになった。 ↓ 借方が左側、貸方が右側になった。 |
私にはこの歴史の流れがとても自然に思えて、すーっと納得できたんですよね。すごくワカル。それ以来、「借方って左だっけ、右だっけ?」と迷うこともなくなりました。
まー、しばらくして簿記に慣れたころには、反射的に借方・貸方が頭に浮かぶようになったので、今となっては豆知識みたいなものです。
ちなみに、この話は大原簿記学校が実施する職業訓練で教えてもらいました。簿記・経理の職業訓練ってぶっちゃけどんな感じなのか? 興味のある人はこちらの記事もどうそ。
まとめ
ここまで、借方が左側、貸方が右側になった歴史話をしてきました。歴史の話なので、ぶっちゃけ「真実は違うかもしれない!」って思ってます。笑
それでも、大事なのは自分が納得できることで、簿記の学習が捗ればいいんです。簿記試験でも実務でも、こんな知識が必要になることはないですからね。自分が面白いと思って、モチベーションあがればそれでOKです。
もう一つのメリットは、左と右で混乱したときにも、理屈から「借方は左!」と断言できるようになることがあります。ま、簿記の勉強続けてれば間違えないですが。うっかり左か右かだけ記憶が無くなっても、理論的に導けます。
どうでしょう、みなさんは納得してくれましたか?
私はこれで納得できたので、「なるほど、そうなんだ」くらいに考えときます。これより説得力のある理由に出会うまで、私の中ではこれが真実ですね。
というわけで、このへんで。
ディスカッション
コメント一覧
コメントありがとうございます。
私も先生から聞いたときは、「おお!?」と衝撃を受けて、もやもやした気分が晴れたのをおぼえています。
それを伝えたくて記事にしましたが、お役に立てたようで…嬉しいです。
青色申告を始めて3回目の確定申告を済ませました。
63歳で訳が分からないままに始めて、ネットで沢山の説明を参考にさせてもらいながら何とかやってきました。
借方と貸方の区別はつくようになりましたが、でもどう考えても変です。
逆になっているような気がします。
きっと昔、何処かで誰かが間違えたに違いない。
それが今に伝わっているのだろう。
そんなふうに考えていました。
でも、この説明を読んで、目からウロコ!
素晴らしい!なるほど、きっとそうに違いないですね。
私もそう思います。